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僕は、身重の尚子をアパートの階段の下まで送るついでに、外で煙草を吸っているはずの野中七海の姿を探した。
そんな僕の様子に気が付いて、
「ナナミちゃん、いないね」
と、尚子は僕の顔を見た。
「ナナミちゃんにさ、よろしく伝えておいてよ! また遊びに来るから、仲良くしてねって」
それからそう付け加えると、尚子は、来た時とはまるで別人の様なスッキリとした表情を見せる。
「あ……ああ……」
相変わらずそう呟くので精一杯の僕だけが、重い空気を引きずったまま、取り残されてしまっている様だった。
「じゃあ!」
そう言って、尚子が大きく手を振る。
その様子は、全くいつもと変わらない。
僕も、手を振る代わりに小さく右手を上げてそれに応えた。