それから突然、声のトーンを一つ上げて、尚子は言った。


「じゃあ、ま、そうゆう事で!
あたし、もう行くわ。今から、病院。予約してあるし」


やっぱり、この尚子の明るさは、不甲斐ない僕への尚子なりの気遣いなのだろうか。

テーブルの上を、ポン、と軽快に叩く。


「大丈夫だよ。一人で、行くからさ」


「………」


「あたし、ちゃんと頑張るし! ね、歩夢?」


「……ああ」


尚子に突然に振られて、やっぱり僕は曖昧な相槌を打つ。

その情けない相槌を、尚子は僕なりの精一杯の肯定と受け止めた。

尚子はさっきよりもずっと明るい顔で笑う。


「じゃあ、また来る! また、来てもいいでしょ? 歩夢」


そう言って尚子が立ち上がる。

とうとう、野中七海が入れてくれたコーヒーは、尚子に口を付けてもらえないらしい。


「……ああ、もちろん」


そう答える僕には、それを断る理由は何もない。