「今日、来てよかったな。歩夢には、授業さぼらせちゃったけど。
……ほら、それに、あの子。ナナミちゃん。歩太の妹。あたし、最初はなんかムカついたけど……いい子だよね。
なんてゆうか、さすが歩太の妹ってカンジ。なんか、あたしがちゃんと産むって決められたのも、ナナミちゃんのおかげなのかも」


そう言って笑い、いつもの軽く明るい尚子の表情に戻る。


けれどもまたすぐにその笑顔は消えてしまって、小さな溜め息と共に尚子は深く俯いた。


「……それにね、あたし」


尚子がまた神妙な面持ちになったので、思わず僕は身構える。


「……うん」


それでも僕の口を吐いて出てくるのは、やっぱりただの相槌なのだから、我ながら落胆するしかない。


「……家族みたいなのって、実はよくわかんなくてさ」


そう呟く尚子は、なぜだかひどく寂しそうだ。
そう言えば僕は、今まで一度も尚子から家族の話を聞いた事がない。