……あの夜。
僕が、歩太のベッドの上で自慰行為に耽っている尚子を目撃してしまった夜。
尚子が洗い立ての髪を匂わせながら、僕に、
『いなくならないでね』
と呟いた時の様に。
いや、多分それ以上に。
今、尚子は僕の存在を求めているのかもしれない、と僕は思った。
「……ん?」
それなので思わず僕も、身構えてしまう。
「あたし、歩夢に甘えたくってさ、ここに来たんだ、今日」
「……うん」
僕には相槌を打つ以外には、きっと何の術もない。
『……誰の?』
ついさっき、そう呟いてしまった自分の愚行を戒めながら、尚子の言葉を聞く。
「それは違うって、わかってるんだけど。……だって歩夢、困ってるし」
……困ってる?
確かに……困ってはいるけれども。
と、僕は心の中だけでそう呟く。