そうしてここでやっと、僕はテーブルの脇に立ったままの野中七海の表情を確認する事ができる。
彼女は、いったい今、どんな顔をしているのだろう。
随分、驚かせてしまったのではないだろうか。
………
僕はごく自然な態度で視線を上げ、野中七海の表情を探る。
彼女は……
彼女は小さな唇をギュッと結んで、ジッと黙ったままだった。
長い睫毛の向こうで黒い瞳が一点を捉えて動かない。
そこは……彼女の見詰める先は、テーブルの上でも手に持ったままのコーヒーポットでもない。
まるでどこか、存在しない宙を見ているようでもあった。
「……あっ……わたし……ちょっと、煙草を……」
僕の視線に気が付いたのか、野中七海は短い瞬きを繰り返して、誤魔化すようにしてそう呟いた。
ポケットを探り、ライターと煙草を手にしながら、パタパタと慌ててキッチンを出て行く。
………
……
バタン
「……あ……」
僕がそう呼び止める間もなく、玄関の重い扉の音は、野中七海を完全にこの部屋から外に追いやってしまったようだった。