……『弱い人』


そう彼女が呟く歩太への言葉には、どこか優しい含みがある。
それを感じながら、僕の胸は微かに軋んだ。


………


「……ねえ、本当に歩太の妹なの? そういえば、苗字も違うよね」


尚子も、僕と同じ何かを野中七海の言葉の中に感じたのかもしれない。
いや、それ以上に、女の勘というヤツはもっと鋭いものなのかもしれなかった。


「……きっと、何か、事情があるんだよ」


野中七海の代わりに、僕がまるで言い訳でもするかのように答える。

野中七海は視線を落としたまま、その質問には何も答えない。


「……アユのためのお城は、どこを探したって、ここにしかないのに……」


僕は、そう独り言の様に呟く野中七海の声を聞きながら、昨日、彼女が僕に見せてくれたブルーのノートの事を思い出していた。


『わたしと、アユの居場所』

あのノートを指してそう言った彼女の、嫌に真剣な眼差し。
確かにあれは、野中七海の言う、存在の城なのかもしれない、と思った。

誰の物でもない。
彼女自身のための、存在の城。