ボックス席の灰皿を交換するついでに、僕は野中七海に工藤さんの所へ行くように目で合図をした。
彼女は水割りを飲んでいて大分酔っていたけれど、コクリと小さく頷いて席を立った。

以外と、ぼんやりしているようで彼女はよく周りに気を使っている。

僕はボックス席で適当に水割りなどを作りながら、今度はカウンターの方が気になってしまう。
工藤さんはどうやら、彼女と何か約束を取り付けたらしかった。

無邪気に、工藤さんと指切りなどをしている彼女の姿が見える。


………


「工藤さんがね、今度、アユとよく飲みに行ったバーに、わたしを連れて行ってくれるって。二人だけの、秘密のバーだったんだって」


閉店間際、大量の洗い物に追われていた僕に、野中七海はそう耳打ちしてきた。


「え? 二人で? ……大丈夫なの?」


「何が?」


咄嗟に小百合さんの事を考えた。


「小百合さんがね、わたしを連れて行ってあげたらって、そう言ってくれたらしいの。あの二人、きっといい仲なのね」