もう半年も経っていた。

未練があるとか、そんなんじゃない。ただ何となく。

わたしは暇をもて余していたし、多分、彼もそうだった。


(…それでも、腕枕はしてくれるんだな)


ゴツゴツした感触を耳の下に敷いて、感慨に耽ってみる。


別れても、無かったこと、には、ならなくて。

なにかしら残ってて。

一向に読まない小説とか、一緒にポイントシール集めてゲットしたカップとか、協力して替えた蛍光灯とか、気に入って何度も観たDVDとか、それから、

…記憶、とか。


"こっち見んな。恥ずかしいやろ!"


DVDに釘付けになって、いつも同じシーンで泣いて。

泣き顔をわたしに見せないように、彼はいつもそっぽを向いていた。

たくさん借りに行った。二人とも邦画が好きだった。映画も観に行った。彼のバイクを飛ばして。


”電車間に合う?しっかり掴まっときよ”


バイクの後ろにのっかって、この家に来た。

彼のバイクで、家を出て。駅まで送ってもらった。

バイクの後ろと前で、いろんな話をした。

声が風に流れて、流れるから、一生懸命大声で話して、二人とも声を枯らした。


風当たりが強くて。
肌は冷気にさらされた。

騒いで。涼しいーとか、寒いー、とか。二人乗りのバイクには、一足早い季節が来たみたいだった。

夏には秋が。秋には冬が。