そのまんまなんだもんなぁって、そう思い始めたら。そのまんま、変わってないものは他にないかって、探し始めてしまう。
眠りたいのに。
耳だけじゃない、目まで冴え始めて、わたしの身体は一向に眠る準備を始めない。
白と黒しかない世界のはずなのに、わたしの瞳はぼんやりとした、赤を捕らえる。
記憶に残ってた、赤色の背表紙。
「読む読む」と言っていたくせに、彼はなかなかその小説に手をつけなかった。
緑。デートの帰りに、どういう風の吹き回しなのか。彼が気に入って買った、観葉植物。
水やりをサボりにサボっていたくせに、一向に枯れなかった。
黄。シールがついたパンをたくさん買って、ポイントを集めて貰ったカップ。
頑張って二つ揃えたのに、彼が一つ割ってしまったから、観葉植物の横に並ぶ、インテリアになった。
…ぜんぶ、そのまんま。
(…"別れよう"、とか)
そういう明確な言葉があったわけじゃなかった。
わたしたちは、ただなんとなくすれ違って、連絡を取り合わなくなって、なんとなく、あやふやに別れた。
合わなかったのだと思う。
わたしは気持ちをはっきり言葉にせずに押し込めてばかりだったし、彼は責められることから逃げるのが得意だった。