あたしたちは別れた。
もうとっくに、付き合ってないのに。
錯覚。あの時の環境に似てたから、あの日と同じセリフだったから、あの頃を思い出したから、つい。
ついうっかり、付き合ってた頃みたいな、ことを。
「ご…ごめ…、っ!?」
ぐいっ!と腕を捕まれた。
ずりっ!と足の裏が滑った。
ごんっ!と尻餅をつくように倒れ込む。
ばしゃんっ!と洗面器がひっくり返る。
でも、その慌ただしい音全部。
ザーッ。勢いよく吐き出される、シャワー音に呑まれて。
「……ぁ、」
浸る、熱いか冷たいかわからなかった。
服に染み込んでくる水分、お尻から、掴まれた腕から。
すぐ目の前には、アイツの髪。
ぽたりと、頬に落ちる。熱い、冷たい。冷たい。
熱い。
「……変態」
喉の奥が震える。近い。ふれそうな。ちょっと笑った、アイツの顔。
怒る、殴る、
蹴る、押し返す、
引き寄せる、
抱きつく、キスをする、
元岡の唇が、耳に近づいて。
…ああ。
何を選んでもぜんぶ、
「……もとおか、」
あたしの、負けだ。