セックス、してしまった。
「これ30部コピーとってー!!」
「八木、案件のデータどこ保存した?」
「ああ、それならマイコンの…」
「課長!コピー30でしたっけ?40?」
「30!!」
ガース、ガース、とコピー機の印刷音。
職場はいつも通り慌ただしくて、うるさくて、せわしない。
「例の件電話きてた?折り返しの」
「私取ってないですよ!確認します」
「八木ぃ、言ってたファイルないぞー?」
「ええ!?ちょっと待ってください」
「平松」
「……」
「平松ー」
「………え?」
振り返った瞬間、ばさり。頭の上から、束になった書類が降ってきた。
白い束の向こうに覗いた顔に、あたしの背筋はギュンと伸びる。
「平松、これ先日話してた書類。今日中にいける?」
「……っあ、ハイっ!」
短めに切ったばかりの爪の先。書類を受け取りながら、思う。
目を合わせないように、でも不自然にならないように、二重の整った瞳のすぐ下を見つめながら、思う。
本当に何にもなかったみたいな、対応ができるんだな。
…触れてから、まだ12時間も経っていないのに。