「ははっ、アホか!ゆうといて。あ、そうそう!おれこの前先輩に会ってさぁー…」
電話はまだ終わらない。わたし以外に発信された、笑い声は止まない。
…いつからかなぁ。
わたしがミルクティーを飲む速度に、気を使うようになってしまったのは。
あなたがわたしといる時、電話に出るようになったのは。
あなたが、
あなたがどこかしらにいる誰かに電話をしている間、それはとても長いから、ミルクティーを飲むだけでは紛らわすことができなくて、わたしは。
…あなたの中に、まだわたしがいるのかということを、捜してしまうようになった。
もしも、あなたの目が見えなくなったら。
”おれやったら絶対手ぇ抜くわ。そう思わん?”
うんそうだねと、頷いたのは嘘じゃない。嘘じゃないんねんよ。
もしタチくんの目が見えなくなったら、わたしは着飾ることをやめるかもしれない。でも。
そのぶん、優しい声で語りかけて。
わたしが見た綺麗なものを表現できるように、慎重に言葉を選んで。
タチくんが好きなチーズケーキを、いっぱい焼いて。
甘い匂いを、部屋に充満させて。
十分温めた手で、タチくんの掌に触れて。
リップクリームを欠かさない唇で、そっとキスをして。
あなたが感じられる全部のところで、すきを伝える。そう思う。