タチくんがまた黙るから、わたしはミルクティーを一口、唇の内側に含む。
ゆっくりゆっくり、舌で転がす。
わたしがグラスを戻したと同時に、ぐらついた水面。机の上のタチくんの携帯が、ブルブルと震えて着信を知らせていた。
「お、電話や」
3コール鳴り終わらないうちに、さらりと電話を掌に拐う。
ピ、と通話ボタンを押す音。コーヒーのグラスについた水滴が、つうっと伝った。
「はいもしもし~。どしてん?」
タチくんの顔に、パッと花が咲く。どんどん大輪になっていく、ほころんだタチくんの表情。
わたしと面と向かって話す時より、大口を開けて笑う。電話の向こうの、だれかに。
「いや、ちゃうねんて!!え?ははっ、なんやそれ」
窓ガラスの向こうを見てみるけれど、どうにも手持ち無沙汰で、必然的にグラスに手を伸ばす回数が増える。
わたしのミルクティーばかりが減っていく。減らないアイスコーヒーと並んで、黒ばかりが勝ってゆく。
一口だけしか含まないのは、舌でゆっくり転がすのは、そうでないと。
そうでないと、沈黙をうまくやり過ごせないから。
瞳が、泳いでしまうから。