このカルヴィナの言う森の彼こと、オークの巨木は俺に牽制をしているようだ。

 この樹の精霊の加護を、カルヴィナは受けているのだろう。

 先程から異様なまでに張り詰めた空気に、カルヴィナは気がつかない様子だった。

 無邪気に木の実を集めては、品定めをしている。

 俺だけが寒気を感じているようだ。

 恐らくオークは、カルヴィナには温かなものだけを送っているのだろう。

『 あ の こ は 森 の 娘 だ よ 』

 そんな、かつての大魔女の言葉が蘇る。

「地主様だけに、恵みが許されているのでしょうか? やっぱり、地主様だから?」


「いや。コレは恵みと言うよりも、戒めと思われるが」

「どうして地主様にだけ、降って来るのかしら。どうして? ズルイです」

 カルヴィナが口を尖らせている。

 俺にと言うよりも、このオークの樹に訴えているような調子だった。

「ズルイ? 本当に羨ましく思うのか」

「はい」

 カルヴィナは何のためらいも無く、頷いて見せた。

「なら、オークの恵みに打たれてみるか?」

「はい……!?」

 頷いたものの途中、疑問を感じたらしい。

 明るかった表情と声に訝しさが含まれて詰まった。

 だが答えてやらない。

 勢い良くカルヴィナの腕を引いた。


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 ザザザッと梢が一際しなり、荒げた音を立てた。


 ぱらぱらと木の実が俺の頭に、背に、肩に落ちてくる。


 それは優しい雨音に似ていた。


 引き寄せた身体を、腕の中に閉じ込める。

 カルヴィナは一瞬もがいたが、すぐに驚きに目を見開いていた。

 視界の端に落ちてくるオークの実を捉えたのだろう。

『降ってくる、オークの恵み』


 古語でそう呟くと、押し黙ったまま動かない。