一緒に落ちてきた実を拾う。

 小さな手のひらに載せてやったが、たちまちいっぱいになってしまった。

 実はかさ付きなのでなおさら。

 カルヴィナは、前掛けの物入れに詰め込み始めた。

 それもいっぱいになると、俺の手のひらに載せ始めた。

 カルヴィナの滑らかな指先が掠めては遠ざかる。

 その度に木の実ごと、手のひらに納めてしまおうかと思う。

「!?」

 不埒な想いを込めようものなら、たちまち木の実が降ってくる。

 ぱら、ぱら、ぱらぱらっと、少し大きめの雨粒が当たるような軽快な音が立つ。

 その度に魔女の娘ときたら、瞳を輝かせて大喜びだ。

 すごいすごいとはやし立て、いいですねぇと本気で羨ましがられた。

 (良い訳があるか)

 そう思っても口にはしない。

 せっかくカルヴィナが珍しく寛いだ様子で、笑顔を見せているのだ。


 その無防備さに呆れながらも、つけ込もうとする自分もいる。

 すぐ目の前には黒髪をさらさらと肩に流し、頬を上気させた娘があるのだ。

 地味に痛いのと、何者かに監視されている薄気味悪さがあった。

 何者かは、この世ならずのモノに違いあるまい。

 これを無視して想いのまま、娘に無体を働いたらどうなるのだろうか?


 例えば、そう。

 引き寄せて抱きしめて、そのまま奪ってしまったら、どうなる?

 ど う な る と 思 う の だ レ オ ナ ル ?


 恐らくどころか確実に、この程度の怪奇現象では済まないだろう。


 カルヴィナのくれて寄こした実の代わりに、気がつくと既に手の中に、細い手首があった。

 ザワザワと木立が揺れ始める。

 辺りに風が吹きつけてくる様子は無い。


 変わらず木の実が落ちてくる。

 だが先程より、勢いを増し始めた。

 枝がしなって、その分強く叩きつけるかのような勢いがついている。


 まだ軽やかだった音も、どしゃ降りの雨が叩きつけたような音がしだした。


 やはり、そういう事らしい。