そのまま進んでゆくと木立が途切れ、急に視界がひらける。

 場の空気が変わる。

 目の前に、広がるのは背の高い草の原っぱだ。

 その先に在るのが、堂々とした「森の彼」だ。

 地主様が息を飲む。

「森にこんな場所が在ったのか? 今まで何度も森を訪れているが、目にするのは初めてだ」

「はい。私も森の彼のお使いが側に居てくれる時でないと、これません」

 使い? と地主様は呟いた後、今も森の影から見守っているであろう、視線の方をちらと見やった。

 地主様は全て察しておられるのだ。

 私はただ黙って、神妙に頷く。

「あれはオークの樹だな」

「はい。彼こそが森の王様です。おばあちゃんは、いつもそう言っていました」

「そうやって巨樹を擬人化して扱うのが、魔女の流儀なのか? 随分と紛らわしい」

「流儀かどうかは分かりませんが、おばあちゃんはそうやって彼に敬意を表していました。彼は特別、ですから」


 ひっそりと地主様が頷いて、彼を仰ぎ見上げた。

 私も同じように見上げる。


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「彼」は他の樹木からひとり離れて、こうしてそびえ立っている。


 樹齢は、わからない。

 でもきっと、この森が出来た最初から、彼はこの場所に在ったと思う。

 少し遠巻きにしながら、地主様と話した。

 でもきっと「彼」には届いている事だろう。

 風が吹き抜けて、彼の梢を揺らしているのがその証拠だ。

 寄りそう地主様はやはり、森の彼の気配にちかいものがあった。

 そうじんわりと確信する。

 少し、近寄り難く感じてしまう所なんかも、そっくりだ。

 いつも抱きつく彼から伝わる、安心感に身を任せているうちに、心も落ち着いて行く。


 それと同時に、何故か心はざわめき出す。


 風に揺れる木立のように。


 そんなところも、そっくりだと思う。