ああ。

 あの、お祭りの護符の事か。

 明日はそれをこしらえる。

 だからこそ、ミルアも含めて村の女の子たちは、この話題で持ち切りだった。

 そんな中、ミルアがことに熱心なのは、彼女の家が石屋のせいもあるだろう。

 綺麗に磨かれた色石を、編みこんだ紐と布とで通し形にして、腕輪にするのだ。


「ううん。あげないよ」

「どうして! まさか、ジェスにあげるの?」

「ううん。まさか」

「まさか、なんだね。かわいそうなヤツ。じゃあせめて、青いのはあの人? エル、さんだっけ?」

「誰にもあげません」

「何でよ!!」

「そういうミルアは誰にあげるの?」

「それは当日のお楽しみ~」

「もう! ちゃんと手も動かしてよ! これ夕刻までに終わらせないと、間に合わないんだから!」


 きゃあきゃあ騒ぎながら、作業を続けた。


 何だか気持ちが少しだけ楽になった気がした。

 約束の時刻になると、地主様は現れた。

 馬のいななきが先触れとなり、しぶしぶ杖を手にして立ち上がり、表に出た。

 ミルアも一緒に見送ってくれる。

 彼が馬から降り立ち、大股で迷い無く近付いて来た。

 襟元がきっちりと詰まった長い上着に、その上から羽織った外套(マント)が翻る。

 全身黒づくめの衣装は、よくよく見ると襟元と袖元に、蔦と蛇の絡む刺繍が細やかに施されている。

 魔術と英知の均衡を表す紋様は、神殿に属する者の証だそうだ。

 選ばれた者だけに、許される出で立ちである。

 今日はいつもより、厳(いか)めしく感じてしまう格好だから、なおのこと気後れしてしまう。

「どこかの騎士様みたいね。すてき」

 こっそりとミルアが耳打ちしてきた。

 すてき?

 ミルアは彼が怖くないのか、と感心した。

「そうだよ。騎士様だよ」

「え? 地主様は騎士でもあるの?」

「そうみたい。神殿の護衛団の、指導者でもあられるらしいの」

「すごいじゃない。剣術を極められているって事なのかしら。どうりで、あのお体な訳だわ」

 常々、頑丈そうだと思っていた体つきは、それを物語っている。

 地主様は、地主様であるだけではなかった。

 だから今日は神殿に赴かねばならない、巫女王様にお会いするのだと仰っておられた。

 それならば、彼の手を煩わせてはならない、時間を取らせては申し訳なかろうと思ったのだが。


 しかも今日からは地主様と二人きりの行き来となり、心の底から気まずかった。