「健人っ…」
シーンとした空気を先に破ったのは唯。
唯は目をつぶり、こちらを向いている
『なんだ?』
「あのねっこれ…」
唯から差し出されたのは、
少し汚れた紙袋だった。
そういえば今日はバレンタインだったな
色々ありすぎて忘れてたよ…
『ありがとう。開けても良い?』
そう聞くと一瞬、間を置いて頷いた。
紙袋から箱を取りだし、
綺麗にリボンをほどいて中身を取り出す…
これはケーキだろうか…
と、思ってしまうほど原型をとどめていなかった。
「ごめんねっ
転んだせいでケーキ崩れてるでしょ?」
『うん…崩れてる』
残念そうに眉を下げている唯を見て
俺はクスリっと笑った。
『でも、不器用な唯が
必死に作ったんだもんな…』
箱の横に付いていたフォークで
崩れたケーキをさし、口の中へと入れる…
不器用な唯が必死に作ったそのケーキは
とても美味しくてお店に売ってあるような
物と同じくらい美味しかった。