尚さんは音楽雑誌を真剣に読んでいて、それからは怖いくらい静かだった。

尚さんの言うとおり私はいつから貧弱になったんだろ。風邪なんてここ数年ひいたことなんてなかったのに。


「おい、寒かったら言えよ。ここ暖房付いてるから」

……聞き間違いだろうか。尚さんからこんな気遣いの言葉が出てくるなんて。


「……平気です。風邪なんて横になってればすぐ治りますから」

ちょっとだけ尚さんを見直してしまった。

意地悪ばかり言うけど、サクや鉄さんの友達だから絶対悪い人ではないと思う。

その証拠にいつも手放さないタバコを私が横になってから一度も吸っていない。


「ふーん。でもそれじゃ歩いて帰るのはムリだろ。あいつに迎えに来てもらえば?」

あいつとは間違いなくサクのこと。

これを利用してサクと対面するつもりなのだろうか。


「……べつにひとりで帰れますから」

「は?呼べよ。亮はお前の保護者だろ」

いつから保護者になったんだろ。まあ、あながち間違いではない気がするけど。


「呼びません。サクの迷惑になることはしたくありませんから」

私はガンガンする頭を我慢して天井をボーッと見上げた。


「へえ、軽いんだな。お前らの関係って」