高校3年生の春休み。
私は家族で引っ越した。
*
『まもなくドアが閉まります』
────いや、閉まんないだろ、コレ。
(ど、どどどどういうことだこれ説明しろよこれ)
私はケータイで時刻を確認した後、冷静に、れれれ冷静にそう心の中でつぶやいた。
そう、先ほども言ったとおり私はこの春引っ越したのだ。
そう、2駅先の新築マンションだ。とても綺麗だ。今まで住んでいた団地とは大違いなほどに。
いやいや、それはどうだっていい。どうでもいいんだよ。
この状況を見てくれたまえよ諸君たち。
「わぁ人がいっぱい」
──新学期。
そう文字にするとなんて心が躍る単語だろう。
おそらく皆は新しい友達やらクラスメイトやら恋やら何か始まりそうな予感がしてるんじゃないか?
否、私だって無論そうだ。コミュ障だが。(※コミュ障とはコミュニケーションが苦手な人のことを指す)
だがこの状況はまずい。
たった2駅先だが私はまず体力がない。自転車なんて乗りたくないし歩きなんてもってのほかだ。
そのためわざわざ定期を買ってまで電車通学になったというのに。
まさかの通勤・通学ラッシュに見舞われるとは。
しかもこれが毎日。
そうかこれが生き地獄。なめてたぜ人生を。
・・・私は途方にくれつつ、何本かある電車を見逃していた。
さらに言うと、人の波を避けつつ眺めていると気分が悪くなってきてしまった。
・・・まずい、非常にまずい。
私は人込みが苦手だ。人の中にいると死にたくなってしまうんだ。
誰か助けろ、いや、助けてください。
助けろください───。
頭の中でそうつぶやく。
無論、助けてくれるわけはない。
こんなとき、普段の私ならなんと言うだろう。
ぷぎゃーざまぁwwwwwwwwとでも言うのだろう。目に浮かぶ。普段の私氏ね。死ねじゃなくて氏ね。
本格的にやばい。
頭が重くなって、目の前が白く発光した感覚。
ふらり。
私の身体が横に倒れかけた。
「──大丈夫?」
電車と人の雑踏の中で、いやに心地良い声が、頭上で聞こえた気がした。
頭が少しずつ軽くなっていくと同時に、私の思考が動き始める。
(いま、だいじょうぶって、聞こえたよう・・な・・・)
ちらっと上を見ると、少し怪訝そうな顔をした青年が、私を支えつつ見下ろしていた。
「qあwせdrftgyふじこlp!!!?!!?!!」
私は思わず、自分の体調のことすら忘れて飛び跳ねた。数センチ。
男性は私を見て少し可笑しそうにする。
「具合、悪いの?」
「えっ、あっ、んっ、と、」
突然のことで言葉が出てこない。
「大丈夫なの?」
「あっ、ふ、ひっ・・はい」
ダメだ、これ以上この人と目を合わせていると・・・ガチで死ぬ!!!
「・・すす、すみませんでしたっ」
逃げるようにその人の脇を通ろうとする。
が、やはりまだくらりとしているせいか、うまく歩けない。
「やっぱり、大丈夫じゃないじゃん。・・こっちきて」
ぐい、と腕を引かれて、私は「ちょまてよ」と思いつつその人の後についていった。
ホームを降りていって、その人は駅員さんに話をつけると、駅員さんの事務所まで着いてきてくれた。
「具合、良くなるまで居たほうがいいよ」
「・・す・・すみませ、あっ、ごめんなさ・・っ」
「いやいや、いいから。・・・あっ、・・じゃあ俺もう行かなきゃ。すみません、よろしくお願いします!」
男の人が駅員さんに軽く頭を下げると、事務所を出て行ってしまった。
「良い人だねえ。あんた、大丈夫かい?」
「んっ!あ、はっ、はい・・、すみ、すみませ」
駅員さんは豪快にハッハッハ!と笑って、ペットボトルの水を差し出してくれた。
「慣れない通勤ラッシュで気分が悪くなったんだろうね。ま、もうちょっと休んでいきな。」
「はぁ~・・」
結局その日、学校に着いたのは9時半を過ぎてからだった。
私は家族で引っ越した。
*
『まもなくドアが閉まります』
────いや、閉まんないだろ、コレ。
(ど、どどどどういうことだこれ説明しろよこれ)
私はケータイで時刻を確認した後、冷静に、れれれ冷静にそう心の中でつぶやいた。
そう、先ほども言ったとおり私はこの春引っ越したのだ。
そう、2駅先の新築マンションだ。とても綺麗だ。今まで住んでいた団地とは大違いなほどに。
いやいや、それはどうだっていい。どうでもいいんだよ。
この状況を見てくれたまえよ諸君たち。
「わぁ人がいっぱい」
──新学期。
そう文字にするとなんて心が躍る単語だろう。
おそらく皆は新しい友達やらクラスメイトやら恋やら何か始まりそうな予感がしてるんじゃないか?
否、私だって無論そうだ。コミュ障だが。(※コミュ障とはコミュニケーションが苦手な人のことを指す)
だがこの状況はまずい。
たった2駅先だが私はまず体力がない。自転車なんて乗りたくないし歩きなんてもってのほかだ。
そのためわざわざ定期を買ってまで電車通学になったというのに。
まさかの通勤・通学ラッシュに見舞われるとは。
しかもこれが毎日。
そうかこれが生き地獄。なめてたぜ人生を。
・・・私は途方にくれつつ、何本かある電車を見逃していた。
さらに言うと、人の波を避けつつ眺めていると気分が悪くなってきてしまった。
・・・まずい、非常にまずい。
私は人込みが苦手だ。人の中にいると死にたくなってしまうんだ。
誰か助けろ、いや、助けてください。
助けろください───。
頭の中でそうつぶやく。
無論、助けてくれるわけはない。
こんなとき、普段の私ならなんと言うだろう。
ぷぎゃーざまぁwwwwwwwwとでも言うのだろう。目に浮かぶ。普段の私氏ね。死ねじゃなくて氏ね。
本格的にやばい。
頭が重くなって、目の前が白く発光した感覚。
ふらり。
私の身体が横に倒れかけた。
「──大丈夫?」
電車と人の雑踏の中で、いやに心地良い声が、頭上で聞こえた気がした。
頭が少しずつ軽くなっていくと同時に、私の思考が動き始める。
(いま、だいじょうぶって、聞こえたよう・・な・・・)
ちらっと上を見ると、少し怪訝そうな顔をした青年が、私を支えつつ見下ろしていた。
「qあwせdrftgyふじこlp!!!?!!?!!」
私は思わず、自分の体調のことすら忘れて飛び跳ねた。数センチ。
男性は私を見て少し可笑しそうにする。
「具合、悪いの?」
「えっ、あっ、んっ、と、」
突然のことで言葉が出てこない。
「大丈夫なの?」
「あっ、ふ、ひっ・・はい」
ダメだ、これ以上この人と目を合わせていると・・・ガチで死ぬ!!!
「・・すす、すみませんでしたっ」
逃げるようにその人の脇を通ろうとする。
が、やはりまだくらりとしているせいか、うまく歩けない。
「やっぱり、大丈夫じゃないじゃん。・・こっちきて」
ぐい、と腕を引かれて、私は「ちょまてよ」と思いつつその人の後についていった。
ホームを降りていって、その人は駅員さんに話をつけると、駅員さんの事務所まで着いてきてくれた。
「具合、良くなるまで居たほうがいいよ」
「・・す・・すみませ、あっ、ごめんなさ・・っ」
「いやいや、いいから。・・・あっ、・・じゃあ俺もう行かなきゃ。すみません、よろしくお願いします!」
男の人が駅員さんに軽く頭を下げると、事務所を出て行ってしまった。
「良い人だねえ。あんた、大丈夫かい?」
「んっ!あ、はっ、はい・・、すみ、すみませ」
駅員さんは豪快にハッハッハ!と笑って、ペットボトルの水を差し出してくれた。
「慣れない通勤ラッシュで気分が悪くなったんだろうね。ま、もうちょっと休んでいきな。」
「はぁ~・・」
結局その日、学校に着いたのは9時半を過ぎてからだった。