「この席、寒いやろ。・・・これ貸したるわ。」



フワッ―――



「っ・・・」


うちの背中にかけられたんは、今まで勝利が着てた薄手やけど温かいカーディガン。


男の子でこの紺色のシックなカーディガンが似合う人って、勝利くらいなんちゃうかな。



そのカーディガンを羽織らせてくれた勝利は、また勉強の世界に戻って行った。


うちはそのカーディガンに包まれて、胸のドキドキが止まらへんくなった。



カーディガンからかすかに香る、勝利の香水の匂いがうちをどんどん好きにさせる―――



それでも何とか勉強せぇへんとあかんなって思て、シャーペンを走らせる。





しばらくたって時計を見るとあと少しで八時を迎えるところやった。


そろそろ、帰ろう。



今日は十分勉強した、ていうことにして。



うちが片づけ始めると、勝利がそれに気づいた。


「実奈子、もう帰るんか?」


コクンと頷くと「そっか」て言うて勝利も片づけ始めた。



うちはノートに『勝利はまだ勉強するんやろ?』って書いて聞くと「別に」て言われた。


「別に」てどういうことやねん。



「実奈子」


再度名前を呼ばれて、勝利の方を向くと「昨日のことやけど」とつぶやいた。


うちはその言葉を聞いて、急いで帰る準備を済ませた。



簡単に頭を下げて帰ろうとした、けど。


「ごめん!」


うしろで勝利が言った言葉が、うちの足を止めた。