「……すっげー、全部カルビ」

「多かったかな?」

「全然余裕。ってか、これぐらい俺1人で余裕に食える」

 10パックほどあるお肉を見て、にんまり笑うコウキ。

「みっ皆で食べるんだからね!」

「わぁってる」

 コウキは私よりも細いくせによく食べる、痩せの大食い。身長は180近くあるのに体重なんて、私より少し重いぐらい――。

「姉ちゃん」

「ん?」

「夕飯食べたら、俺も出かけるから」

 冷蔵庫で見つけたらしいチーカマを銜えながら私に言う。

「何処に行くの?」

「隼人んとこ。何人かであいつんとこ集まるんだ」

「よく隼人くんちに行くわね。迷惑じゃないの?」

「今日、明日、お袋さんたちいないらしい。あっでも、ばぁーちゃんはいるって言ってたな」

「親御さんがいない時に、もうっ。じゃあ、おばあちゃんにこのお菓子持って行って」

 開けずに置いてあったお菓子の箱をかざしてコウキに見せたら、コウキはチーカマを食べながら片手を上げた。

「絶対に夜中、歩き回らないでね。補導でもされ――」

「わぁーってる」

 私の言葉を最後まで聞かずに言葉を挟む。

「毎回、同じことよく言えるよな」

「私が言わないで誰が言う? 1回あったから言ってんでしょ」

 夕飯の支度の手を止めずに、ソファーで寛ぐコウキに言い放つ。

「母さんは、口うるさくなかったぜ」

「母さんは優しいからよ! 私は厳しくいきます!」

「ただいまぁ」

 そんな会話をしていると玄関から声が聞こえ、忙しない手を一旦止めて玄関へ向かった。

「お帰りなさい!」

 ネクタイを緩めながら、コウキとそう変わらない身長を少し前かがみにして、靴を脱ぎ家に上がってきた声の主。傍に駆け寄って、すかさず鞄と少しよれたスーツのジャケットを受け取る。
 黒に白が交じった髪をジェルでやんわりとオールバックにしていて口の周りには若干髭が伸びていた。細長く一重のキリッとした目元が今にも閉じそうな感じの、私とコウキの父――晃志(こうじ)50歳。

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ」

 今にも眠り落ちてしまいそうな父さんを支え、リビングへ連れて行く。

「お帰り……って、平気かよ!?」

 コウキも父さんの表情に心配の声を上げた。

「コウキ、久しぶりだなー」

「久しぶりって……昨日、顔合わせたっつーの。ってか、体大丈夫なのかよ?」

「ん……? 父さんは平気だぞ。ただ眠いだけだ……」

「いや、だからそれが心配なんだって。こっちは」

 父さんをソファーに座らせると、すぐにぐったり深く身体が沈んでいく――。