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「た……だいまぁ……」

 マンションのエントランスを抜け、やっとの思いで着いた自宅の玄関のドアを開けて、1つ長めの体全部を使ったため息が漏れる。ドサッと荷物を玄関に一旦置いて靴を脱ぎ、再び重い荷物を手にして中へと進む。リビングの方へと足を進めて行くと、硝子戸から明かりが漏れているのに気づき、リビングに焦り飛び込む。

ごめん! 遅くなって!!」

「あっ、おっかえりー姉ちゃーん。腹減ったぁ」

 扉を開き返ってきた声の主は、襟足長めの金髪ウルフショートに制服を着崩しネクタイを緩め、ソファーに寝転びながら私に暢気に手を振っている。2つ下の我が弟コウキ、15歳高1。

「何だ……コウキか。いるなら、荷物取りに来てよ」

「あ? 俺、疲れてんの。無理ー」

 だるそうに目を閉じながら欠伸をしている弟の姿に、怒りがふつふつ沸いてくる。けれど、今思えば――そうだ、この男を呼び出せばよかった事に、どっと更に肩に重りが増す。
 それから、恐らくコウキが取り込んでくれたであろう洗濯物が、ソファー近くにそのまま放置されているのが目に入り、深いため息が漏れる。

「取り込んでくれたのは有り難いんだけど、せめてタオルだけでも畳んでくれてもいいのに」

 頬を膨らませて、ドサッと勢いよくダイニングテーブルに置く。1人でよく持ち帰ったと感心してしまう程の荷物の多さと、腕にはほんのり赤く色づいた持ち手の跡。一度座りたい気持ちがあるものの、座ってしまったら立つのが億劫になってしまう気がして、すぐさま夕飯の支度にとりかかった。

「コウキ。冷蔵庫に買ってきたもの入れて」

「めんどくせーなぁ」

「1人だけご飯なーし」

「あーもう……。はいはい、分かりましたよ」

 のっそりソファーから立ち上がり、買い物袋から野菜やお肉などを出し冷蔵庫へしまってくれる。私が言えば、文句は必ず言いつつも一応は手伝ってくれる、この弟。

「親父、今日何時に出るんだっけ?」

「車らしいから22時ぐらいには家を出るんじゃないかなぁ」

「無理しなきゃいいんだけどな」

 コウキは少し心配そうに呟いた。

「そうだね。だから今日は体力つけてもらおうと思って焼肉にしたの! 特売でカルビいっぱい買ってきたんだから。野菜もね」

 テーブルに置いていたチラシの『今日の広告の品』と書かれた場所を指し、レジ袋を開いて見せた。