* * *


 暗い暗い闇が支配する中――呻く声が響き渡る。

「シュヴァルツ様!」

 呻く声に導かれ駆け寄って来た黒髪の青年が、地べたに倒れ込んでいるシュヴァルツと呼ばれた者に心配の声を上げる。

「なに? アイツにやられたんでもしたわけー? 情けないなぁ」

 頭の後ろで腕を組み、のんびりと歩み寄って来る声が少し高く感じる銀髪の青年。その表情は怪しげな笑みが僅かな灯りで映し出される。

「ハウィー。我らが君主にそのような口を利くものじゃない」

 青年の背後から現れた低い深緑の髪を持つ男は言う。
 ぽつぽつと蝋燭の灯りだけがあるこの広間――それぞれの表情や姿ははっきりと窺えない。だが、黒髪の青年の目前には、シュヴァルツが汗を掻き息苦しそうにしている姿があり、また微かに体が震えているのに気づく。

「お体を休めて下さい」

 気遣う黒髪の青年に対し、銀髪の青年と深緑の髪の男はじっとその場で様子を窺っている。

「手をお貸し致します」

「……フ……フフ」

「シュ……ヴァルツ……様?」

 黒髪の青年の声の変化に男と銀髪の青年が、眉間に皺を刻み表情を変えた。

「――面白い。我にこのような痛手を負わせるとは……長年待ち望んでいた」

 不気味な程にのっそりと立ち上がり、一歩――また一歩と前へ踏み出る。男を囲う周りの空気は、次第に暗く重い冷気へと変わり、歩みを止めた場所で手にかけた布を横方へ押し開く――。布が開けた先には、大きな窓から差し込む赤オレンジの光を放つ月の姿。

 ゆっくりと、背を向けていた3人へ振り向き、男の表情が徐々に見え始める。少し距離を取っている2人の男は厳しい眼光で前を見据え、傍にいる黒髪の青年は額から一筋の雫を流す。シュヴァルツの全身から放たれた見えない何かが、重く下から突き上げられる感覚とじわじわと体の周りを覆ってくる。

「……ハハ……フフフッ」

 月の光に照らされた男の表情は、不気味に口端を上げて黒い冷たい瞳はどこか一点を見つめながら、妖しく笑みを浮べている。最早、誰1人として口を開くことは無く、ただ目前の君主を見つめ続けるだけ――。

「見つけた――時は巡ってきたのだ。我が元へ必ず――」