* * *
あれ……ふわふわで柔らかい……気持ちいい。
「……っん」
徐々に開いていく瞼に光が入り、視界はぼやけて現状が見えない。
(私……どうしたんだっけ)
ぼやけ見える視界で頭を左右に動かすと、その先に人の影を捉える。次第に視界が鮮明に写し出されていき――。
「悪い、起こしたか。部屋に着いたぞ」
語りかけてきた声に、目が一気に冴え体を勢いよく起こす。気づくと、ふふわふわに感じたものの正体は元の部屋のベットで、その傍らには先程まで私を抱き上げていた人物。
「目が覚めたなら、足を暖めてゆっくり休むといい。その方がよく眠れる」
腰に手を当て低い声でそう言い残し、踵を返して扉の方へ向かう王様の背中に慌てて声を掛ける。
「王様! ご迷惑をお掛けしてすいませんでした! それと本当にありがとうございました!」
即座にベットの上で正座をして頭を思いっきり下げた後、目線を元に戻す。私の声に反応して歩みを止めた王様は振り向き直る。
「その、王様と敬語はやめろ」
「いやっ……でも、王様以外呼び方ないですし、歳だって王様の方が上なので」
唐突な王様の言葉に、両手を左右に振り答える。王様はこの国の頂点に立つ人で、私みたいな一般人には程遠い人。やめろと言われたからって、簡単に出来るわけもない
「お前はこの国の民でもなければ、この世界の人間でもないだろ。王様と呼ぶことはない」
「それは……そうですけど。王様を王様と呼ぶ以外にないですし、第一敬語は駄目だと言われても一般人の私は出来ません」
王様の端整な顔を見つめながら、今度は頬を人差し指で数回掻きながら悩んでいたら、王様は背を向けて言い放つ。
「ジンでいい。様はつけるな」
「絶対に無理です! 王様を呼び捨てにするなんて、そんなの無理です!」
王様は扉の取っ手に手を掛けている状態で言い放ち、私はその言葉に顔を横に振ってベットから慌てて降り王様の元へと駆け寄る。王様は話を勝手に終わらせるかのように、扉まで歩みを進めていきノブに手をかける。
「無理です!! 絶対に!」
「俺が良いって言ってるんだ。従え」
「従えって、それじゃ少し矛盾が――あっ、ちょっと待っ……王様!!」
バタンッ
私が言い終える前に扉は開閉し、王様は部屋を出て行ってしまった――。