暗闇をゆっくりと歩き続ける王様。なんとなくだけど、その歩調はまるで私をあまり揺らさないようにしてくれているよう――。
何度か腕から逃れようと試みたけれど、結局男の人の力には敵わなくて大人しくこの行為に甘えることにした。視線を何度も王様の顔を盗み見ていたら、不意に漆黒の瞳と出合う。
「俺の顔に何か付いてるか」
「……ごっごごごめんなさいっ」
慌てて視線を自分の手元に移し、その視線の先でふと気づく。
「王様! そういえば、さっき怪我したんじゃ――」
あの男に吹き飛ばされ、腹部を痛々しく押さえていたのを思い出し、心配の声を上げた。
「大したことはない。心配するな」
「心配するなって言われても――」
言葉を続けようとしたけれど、王様の漆黒の瞳が落ちてきて有無を言わさない表情だったから、私は飲み込み肩を竦めた。
静かな歩廊。微かに窓の外から聞こえる、虫たちの鳴き声。王様も私も口を開くことはなく、ただ蝋燭の灯りが照らす歩廊を王様の単調な靴の音が響くのが耳に届くだけ。
それから、トクントクン――微かに聞こえる鼓動のリズムにだんだんと瞼が閉じそうになり、頭が徐々に下がっていきそうに。
(寝ちゃ駄目だ……)
瞼を必死に閉じないように、瞬きを繰り返し頭を横に振ったりして気を紛らわす。
「あきな」
突如、頭上から落ちてきた私の名前を呼ぶ声に驚き、ゆっくりと顔を上げる。
「……っ」
私を見つめる瞳に大きく全身の脈が打ち、全身の温度が急上昇し鼓動も速くなる。
「無理をしなくていい。寝ていろ」
先程までの表情とは打って変わって、優しく微笑んでいる王様の顔。私の頭を自分の胸に押し付けるように、再び力を入れた腕。その行動によって、頬は王様の胸板に付き頭を預ける形となった。
耳元から聞こえる王様の心地良い鼓動に、速くなった自分の鼓動が次第に相手の鼓動と合わせるように落ち着いていき、瞼が重く閉ざされていく。
(人の温もりって、とても安心する。それに温かい)
薄れゆく意識の中、心の中で呟いた――。