「予想以上に行動は早いかもしれんな」

 ギルスさんの呟きに、一瞬ぴくりと反応を示す王様。

「あぁ。今夜はもう襲撃してくることはないだろうが、今夜は念のために警戒を緩めない方がいいな」

 静まり返った龍の間では、誰一人口を開かずに各々で思考しているかのように、難しい表情を浮かべていた。

「――っくしゅん」

 静けさが漂っている空間に不似合いな私のくしゃみが響き、2人が一斉に私へと視線を向けた。

「お主は何故ここにおる。部屋から出るなと言われなかったのか?」

 ギルスさんは目を細め、疑いを持った眼差しと声音。

「すっすみません!! でも……どうしてだか分からないんです! 本当です! それに――」

 必死でギルスさんに向かって訴える。目を逸らさず、嘘じゃないって伝えたいと思いながら、言葉を選び再び口を開こうとした時――。

「ギルス。その話は後にしろと言った筈だ」

 王様の言葉でギルスさんの視線が逸らされ、私もまた王様へと目を向けた。

「――御意」

 瞼を閉じ軽く頭を下げ言うと、瞼をうっすらと開け横目で数秒私を見遣ってギルスさんは踵を返し私達の元を去って行った。そうして、再び私と王様の2人がこの場に残された。

「お前は、もう部屋に戻れ」

 そう声を落して王様は歩み始めてしまい、私は遠ざかって行こうとする背中へ――。

「王様!!」

 っと、勢いで王様の袖を掴んで呼び止めた。そっと仰ぎ見たら、漆黒の瞳が表情を変えずに見下ろしていて、気まずさから視線を逸らし俯く。

「何だ」

「…………」

 王様にしか頼めない事――でも国の長である人にこんなこと頼んでいいのか迷う。

「呼び止めたからには、用があるんだろ? 黙ってたんでは分からん」

 黙り込んでしまっている私に、苛立ちを含んだ王様の声音に、一度唇をかみ締めてから息を吸い込み――。

「部屋までの帰り方が分からないんです!!」

 言い終わって瞼をきつく閉じ、身近にいるのにまた大声で叫んでしまい、よく響く空気が乾いた空間に私の声が広がって消えた。

「お前、そういう事は早く言え」

「へ?」

 裾から私の手を外し、王様は剣を持っている腕を水平に上げると、剣先の赤い玉が光り剣全体を包み込み一瞬にして姿を消してしまった。