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これから――何が始まるんだろうか。私達の周りの雰囲気が先ほどまでのものと一変。
アンティークの椅子に腰を降ろしている私の右隣にはジン、左隣にレイ。私達3人の背後にアッシュさんとアディルさんが立つ。鏡のように鍛錬に磨かれたテーブルを挟んだ向こう側に、ウィリカ、ギル、そしておじさんがいる。向かい合う形で座っている間には、少しひんやりとした空気が流れる。
「お前等、俺様を呼び出したからには、それ相当の用なんだろうな」
「僕はこの人達が何の用なのか、だいたい予想はつくけど」
「あ?」
「おりゃも。だいたい予想つくぜ」
「あ!? おっさんもかよ! てめーら、もったいぶらずに言いやがれっ」
傍で叫ぶギルの声が、とても迷惑そうに人差し指で片耳を抑えるウィリカ。おじさんはにやにやと笑ってるだけ。
「うるさい。近くでわめくな、暴れるな」
「お前が俺様に隠し事してっからだろうが」
「隠し事ってな。普通なら分かるはずだけどね。本人が目の前にいるんだから」
「は? 本人だ?」
ウィリカがねっ?――口端を上げながら、私へ視線を向けてくる。金の瞳の視線に、途端肩に力がこもる。ウィリカの視線を辿って、ギルの鋭い眼光まで。
「この女の話かよ」
そう言って、乱暴に椅子へと腰を降ろすギルはそのままテーブルへと足を乗せ組む。
「話というのは言うまでもない。ここにいるあきなのことについてだ」
ずっと口を結んでいたジンが漆黒の瞳を鋭い視線へと変え、ギル達へと話を切り出す。
(私の……こと?)
自身の名が告げられ、喉がこくり生唾を飲み込む。なおも、向けられている視線に耐えられず逸らす。
「ふんっ。貴様らが言いたいことは分かった」
「ほぅ? 我々が言いたいこととは?」
「その女が俺と契約した話だろ」
「契約?」
シャルネイに戻してもらう代わりにギルの言うことを聞く。私はそうギルと約束した。契約とはそのことなんだろう。
「この女から言ったんだぜ。ここに来る条件に俺様の言うことに従うと」
「それで?」
「あ?」
「あきなは元々ここの国の者だ。お前達が無理やり連れ出した。元の場所に帰りたいと懇願するのは当たり前のことだ。違うか?」
「大いに違ぇな。俺様とこの女は口だけとはいえ契約したんだ。俺様の船の中で交わしたことだ。こっちのルールに従え」
ジンを睨み付け、いつもの怒鳴る声ではなく、冷静に言い放つギル。