一向にやってこない衝撃がないことで、恐る恐る瞼を上げた。腕の隙間から目前を一度確認する。すると、淡い白い光が視界に映し出され腕を除けたら、小さな円が作られ私を守るように包み込んでいた。ハッと見上げた先には、球体そのものが淡い白い光を発しているのを目にする。この円を作ったのは、この球体なんだと悟った。円の周りの突風や瓦礫たちは、この円を避けていくように通り過ぎていく。
 その時――さっき球体を目にしたあの時も、ほんの一瞬目にして、気のせいだと思ったことだったこと。球体の姿が一瞬だけ消えかけた気がした――。
 次第に突風の勢いも弱くなり、そうして円もまた徐々に消え始える。ゆっくりと立ち上がって周りを見渡し、その光景に私は息をのんだ。目前に広がるのは――全てのものがなくなり、荒地へと姿を変えたシャルネイ国の無残な姿。足をふいに一歩踏み出すと、ジャリッと砂が靴底に擦れ音を立てる。

 ――大丈夫か? 怪我はないか――

 背後から気遣う声が掛けられ、戸惑いながらも頷く。

「どう……してこんな……ことに?」

 球体には背を向けながら、少し震える声で問い掛ける。それも、次第に荒さを交えていく。

「ねぇ、どうして? どうして私にこんなのばかり見せるのっ。私と何の関係があるの!? もういいかげん教えて!! もう嫌なのっこんな……こんな……」

 体が震え出して止まらない――この間、見たものと一緒。あの時だって一瞬にして、建物も人も何もかもが消えた。目前で起こり、とてつもなく大きな恐怖が私を襲う――。

 ――あきな――

 自身の名が呼ばれると、荒地の光景が一瞬にして消え、ただ漆黒が支配する闇の世界へと変わった。

「私は何の為にここへ来たの? どうして、私じゃなきゃいけないの」

 ただただ、ずっと疑問に思っていたことだけしか言葉に出てこない。

 ――その"指輪"を持っているからだ――

 指輪。その単語が、異様に大きく聞こえ、震えて止まる気配のない両手を上げて、左手中指の母さんの形見に触れる。

「ゆ……びわって、母さんの……」

 後を振り返り、球体と向き合う形に。

 ――指輪を持っている限り、あきな。汝は幾度となく、このような光景を目にすることになる――

 この指輪を持っている限り、幾度と無く――?