その人物は王様を見下ろし、額に剣先を突きつける。

「おう……さま……」

 呟き口元を掌で覆う最中、目前の人物がゆっくりとこちらに振り返る――。その姿を目にした私は大きく見開く。驚きで頭の中が混乱して言葉が出てはこない。
 王様に剣を突きつけているのは――見間違えることのない漆黒の髪と瞳を持つ、王様その人だったから。

(何が一体どうなって……どうして、王様が2人も)

 この状況がまったく理解出来ない。偽者――ううん、違う。確証は持てないけれど、偽者だとも思えない。漆黒の瞳も髪も、目が奪われたあの時と同じだから。

「余所見をするな!!」

 フュンッ

 剣を振り翳され、刃が空を裂く。下方からもう1人の自身に向けて剣を振ったが、刃を避け軽やかに宙へと舞い互いの距離を取り、地へと足音をたてずに降り立った。膝を着いていた王様は、顔を俯かせ肩を使い荒い呼吸をしながら、震える足で立ち上がる。時折、がくりと膝の力が抜け崩れ落ちそうになるものの、何とか踏み止まった。剣を突き立て、自身の体重をかけゆっくりと顔を上げる。
 そして、強い眼差しで相手を見つめた姿に、私は一瞬時が止まったかのように体が動かなくなった。強い闘志を燃やしているような――漆黒の瞳に吸い込まれてしまいそう。私が言葉を失っている、次の瞬間――。

「はあああああぁぁぁぁ!!」

 王様は叫びと共に地を強く蹴って相手目掛け突進し、重々しい剣を振り上げ、目前の相手へと力いっぱい落とす――。
 一瞬の出来事で、もう1人の王様はもう逃げる間などない。この人は斬られてしまう――そう思わざるおえない状況に目を覆いたくなる。そう思うのに、どうして。どうしても、目が逸らせない――。

 シュッ!!

 目前の光景と空を切り裂く音が耳に届いた途端、私は力無くその場に座り込んだ。

「う……そ」

 残酷な光景を目の当たりにする――そう覚悟していた。