「なっなんだ。窓に風が当たってるだけか……ビックリした」

 正体が分かったと同時に、胸を撫で下ろす。こんな些細な音にも敏感になってしまうのは、薄暗い空間のせい。とにかく落ち着こうと、息を吸ったり吐いたりを繰り返す。次第に落ち着きを取り戻し、気合を入れなおして、とりあえず今足が向いている方向へ進もうと決める。

「早く誰か見つけて部屋に戻りたい。こういう時に限って、本当に誰にも会わなかったりするんだなぁ」

 薄暗い中に長くいたくないが為に、急ぎ足でその場から離れ目的地を目指し始める。












「ここも、違うか……」


 暫く歩廊を歩き続け、自分に用意された部屋のと酷似している扉を見かけ、一度ノックをしたのち開けたてみたものの、月の明かりに照らされた部屋の内装は見覚えのないものばかり。また、空振りだと肩を落として扉を閉め、再び歩み始めようとした時――。

「何? 今……」

 振り返って辺りを見渡しても、薄暗い空間が広がっているだけ。

「今たしかに……何か」

 首を傾げながら、再び辺りを見渡したけれどやっぱり私以外の姿はない。自分の気のせいだろうと、足を踏み出す――。

 キンッ

 今度ははっきりと耳に届いた音。気のせいではなかったんだと、次第に頬が緩み出す。

「誰かが近くに来ているのかもっ。よかった……。でも、何処から」

 どこからともなく聞こえてくる音に、耳を澄ましてその方角を探ってみようと試みる。

 キンッキンッ キンッ

 金属が擦れ合うような音が、すぐ傍で鳴っているような感覚。目を閉じて、その音に意識を集中させた。

「こっちだっ」

 惹かれるように、音のする方角へと足を向けて駆け出した――。