「……お言葉に甘えてもいいでしょうか」

「もちろんですよっ」

「副長っ」

「本当に申し訳ありません。それでは失礼致します」

 メイドさんに急かされ、ジョアンさんは申し訳なさそう眉を下げて一礼をし、メイドさんと共に通路を駆け出して行った。2人の靴音が徐々に遠ざかり消えていく中、私はポツンとその場に立ち尽くす。

「さてと。微妙な記憶を頼りに部屋に戻らなきゃ。分からなくなったら、その時はその時だ」

 小さくため息をついて、ジョアンさん達が向かった方向とは逆に足を向けた。その場を去る間際、豪華な装飾がされている扉が視界に入る。
 シャルネイ国国王ジン――。地図で見たシャルネイ国の大きさ。そんな厖大な国を治めているのは、私とそう変わらない歳の男の人。今、不特定多数の人たちから王様は命を狙われてる。それも、女性や幼い子供も含まれてるんだ。そんな状況を王様はどう思っているんだろう。今は、開くことのない扉を、私はただ見つめる――。



 カツンッ

「お前はそこで何をしている」

 突然、背後から声が掛かり、驚きのあまり肩が反応する。そして声の主へ、恐る恐る視線を背後へと動かす――。それが誰だか予想はつく。この声に何度も、体が震え怯えた――。
 下げ見ていた視線を恐る恐る上げきった先には。

「何をしていると聞いている。答えろ」

 予想していた目の前人物は――白灰髪のアッシュ。まさにその人が、私の目の前にいる。長身の彼は、私を鋭く細められた青い瞳で見下ろしていた。

「……あの、その」

 この人の瞳が苦手だ。凝視されると、言葉が思うようにうまく出てこない。

「アディルなしでは喋れないのか、お前は」

「い、え。その……」

 私を見る厳しい瞳に耐え切れず、咄嗟に視線を逸らして俯いた時――。ふっと鼻で笑らわれた気配がした後。

「お前はまるで赤子だな」

 ……赤子。以前にも言われた言葉に、ハッと顔を上げた。