* * *


 闇が支配する空間。周りを見渡しても、ただただ――暗闇が広がっているだけ。

 ――っく……っく――

(背後から泣き声――?)

 声の方向に、ゆっくりと振り返る。視線の先には、子供が両膝を抱えながら蹲っていた。その子の元へ私は自然と歩み出す――。

「ねえ? どうして泣いてるの? どうして1人でいるの?」

 そう問いかけてみるが、返事はなく――小さな泣き声が聞こえてくるだけ。私は膝を着き、その子と同じ目線になる。どうして泣いているのかと、覗き込みながら何回も問うた。それでも返答はなく、そっとその子の頭を撫でる。

「大丈夫。私がいるから寂しくないよ」

 怖がらないで――そう声を掛ける。しばらく撫でていると、泣き声が止んだと同時に腕を突然掴まれた。

「っつ…!!」

 本当に子供の力なのかと思うぐらいの強さに、小さく苦痛の声を上げる。予想だにしなかった強さに、眉間の皺が寄り次第に額には汗がじんわり滲み出てくる。そしてゆっくりとその子は顔を上げていく――。

「え……」

 徐々に子供の輪郭が見え始めいく――。

(笑っ……てる…?)

 その子の口元が見た瞬間。

「怖……い……」

 思わず口にした言葉に、悪寒が体中に走る。そうしている内に、徐々に面があらわになっていく――手前。

「嫌……見たくない……」

 目を逸らしたいのに――逸らせない。

「見たくない! 見ないで!!」

「嫌だ! 私を見ないで――っ!!」

 私の思いとは裏腹に、その子の顔が見えようとした時――今まで闇だけが支配していた空間が真っ赤に染まった。