* * *
「また明日にでももう一度来てみましょうか。もしかしたら、まだお休みになってるかもしれませんし」
「はい、そうですね」
今、私はジョアンさんと共に、王様の部屋の前に立っている。王様にどうしてもお礼を直接伝えたくて、ジョアンさんにお願いして連れてきてもらったのはいいんだけど、何回か呼びかけてみたものの応答は一切ない。
「それでは戻りましょうか」
「はい。すいません、忙しいのに我儘を言ってしまって」
「いえ、我儘なんて。さっあきな様もお部屋に戻って少しでも体を休めなくては」
2人で踵を返し部屋へと戻ろうとした時だった――。
「副長ー!!」
通路に響き渡るほどの大きな声が聞こえ、私達は同時に背後へと目をやる。息を切らし額には汗を滲ませ、私達の元に慌てて駆け寄って来た1人のメイドさんの姿が。
「そんなに慌てて、どうかしたのかい!?」
ジョアンさんはメイドさんの慌てぶりに心配気に問いかける。そして、私達の元に辿り着いたメイドさんが途切れ途切れに言葉を口にした。
「シェ、シェリーがまた……他のメイドと……ハァハァ」
長い時間探し回ったのか、最後まで言葉に出来ず、メイドさんは息を整えるのに精一杯の様子。それでも、ジョアンさんは最後まで聞かずとも彼女の話を理解したよう。
「またかい。まったく、どうしてあの子は」
「急いで……戻らないと……お夕食の支度が、間に合いません」
メイドさんの背中を擦りながら、ジョアンさんは私の方へ振り返った。
「あきな様。お部屋へご案内致しますので」
「いえっ急いでるんですよね!? 私は大丈夫ですから、行って下さい」
両手で左右に振り、先に行って欲しいと促す。
「まだあきな様はこの城に慣れていませんのに。そんな方を1人置いていくわけには」
「大丈夫です! 部屋までの道は覚えましたから」
そう言ったものの、本当はあいまいに覚えてるだけだった。けれど、これ以上迷惑を掛けてもいけないし、それにジョアンさんが行かないといけない状態だろうから。
「しかし……」
「ジョアンさん! 早く行かないと大変なんですよね!?」
"本当に気にしないで下さい!!"っと、ジョアンさんを見つめ笑みを作った。