「おいおい、父さんがいない間に喧嘩しないでくれよ」

「俺、相手にしてねーから平気。姉ちゃんが餓鬼なだけ」

「それは、こっちの台詞です!」

 コウキに向かって、いーっと歯を見せてやる。

「それが餓鬼の証拠なんだっつーの」

 私達のやり取りを見ていた父さんが静かに微笑む姿を見て、渋々口を閉じたのだった。

「まだ時間に余裕があるな……よしっ少し寝ておくか」

 父さんは欠伸をしながら、両手を上にして体を伸ばす。

「あっ、布団敷いて来るから、ちょっと待ってて」

「いいよ。それぐらい、自分でやるから」

「私がやる。座っててっ、ね?」

 立ち上がろうとする父さんよりも先に、リビングに隣接している和室へ向かい押入れから布団を出す。洗いたての真っ白いシーツを被せて、皺がないように伸ばしながら敷く。そして、枕と掛け布団もセッティング。

「父さ~ん。お待たせしました」

「ああ。ありがとう」

 和室からひょっこり顔を出すと、コウキと何やら会話をしている光景が目に入り『よろしくな』っと言う父さんの僅かな声が耳に届く。コウキと会話が済んだのか、ふらふらと立ち上がり和室へ入ってきて、倒れこむように布団に入る父さん。

「何時に起こせばいい?」

「そ……うだな……21時過ぎくらいに起こしてくれ」

「了解。それじゃ、おやすみなさい」

「あぁ。なぁ、あきな……」

 電気を消してあげて襖を閉めようとした時、父さんに呼び止められる。

「何?」

「また、1週間近く家を空けることになってすまない」

「毎回同じこと言うんだから……。そんなに心配しないで?」

 あはは――っと笑って、父さんに答える。

「母さんが亡くなってからずっと……無理をさせて……」

「それは父さんの方がだよ? ほら、少しでも寝なくちゃっ」

 今にも瞼は重そうで閉じそうなのに、何故かポツポツ喋り出す父さん。

「小さい頃……から母さんにお前達の……こと任せきりだった……。今も代わりにあきなにさせてし……まって……」

「心配しなくて、大丈夫だから」

 私がいたんじゃいつまでも寝ない気がして、再び襖を閉めようとしたけれど。

「あきな」

「もう……父さ――」

「やりたいと思えることがあるなら…家のこと……は気に……せず……やってい……いんだぞ……」

 途切れ途切れに言い終えると、ようやく父さんは瞼を閉じ、静かな寝息をたて眠りについた。