でも、梓紗は俺の期待には答えようとはしてくれなかった。


「本当にっ………なんでも無いからっ。」


「どうしてなんだよっ!!!!」


俺はバルコニーに響くほど大きな声を出して梓紗に聞いていた。


俺の声が反響してキーンと高い音がこだまする。


「言えるわけ無いでしょっ!!!!だってあたしは夏起くんの事をっ!!!!」


初めて梓紗が俺に怒鳴った。


少しだけ嬉しいような気もした。


梓紗の『初めて』の顔をたくさん見れる。


でも、どうして俺はそんな顔しかさせてやれないのか。


そう考えるとチクリッと胸が痛む。


……………複雑だった。


「俺のことが…………なんだよ…………。」


嫌いなことは分かってる。


でも、頼ることは出来るだろ??


……………ムリだよな…………何度も抱かれた男に話すなんて………。


その証拠に梓紗は言葉に困っていた。


「…………分かってる。俺に言いたくないなんて。」


震えそうな声に必死に歯を食いしばる。


今ここで梓紗の前で泣いてしまったら梓紗は困る。


梓紗をもう困らせたくはない。


…………迷惑は…………もうかけたくないから。


俺はそっと離した…………しかし…………。