「夏起………くんは………。」


「ゴメンな。いきなり抱き締めたりして。イヤだよな。」


俺は梓紗の言葉に自分の言葉を被せた。


聞きたくなかったんだ………梓紗に『拒絶』の言葉をかけられることを。


情けないけど、いま、一緒に居られるだけでも怖いんだ。


また、泣かせてしまうんじゃないか。


また、梓紗を抱いて傷付けてしまうんじゃないか。


そんな考えが頭を身体の何もかもグルグルと巡る。



「本当にゴメン。あんなに酷いことしてんのに。」



そうだ、俺は梓紗を忘れなきゃいけないんだ。


でも、どうしてだろう。


梓紗が俺に笑ってくれた時から胸がドクンッと高鳴る。


俺には、梓紗を好きになる『資格』なんて無いはずなのに。


「あぁ、なんで泣かせてばっかなんだろうな。俺って汚いよな。」


梓紗の表情は歪んでいる。


また…………そんな表情しかさせてあげられない。


どうして俺は梓紗と出逢ってしまったんだろう。


出逢わなければ、俺はこんなにも梓紗に惹かれることはなかったのに。


梓紗を傷付けることもなかったのに…………。


「なんでこんなこと梓紗に愚痴ってるんだろうな。」


「夏起くん。」


「じゃあ、俺は帰るな??琉斗と彩海には俺から伝えるから。」


「ねぇ、待って。」


「またな。」


俺は、梓紗に背を向けた。


梓紗の瞳が儚く揺れる。


涙が出そうになった。


俺の今までの馬鹿な行為に。


こんなに梓紗を好きなのに、傷付けることしかできない俺の存在に。