梓紗の顔を、姿を…………どうしても見ることが怖かった。


だけど、背中にぬくもりを感じた瞬間。


そんな考えなんて頭の中から消えていた。


「あ…………ずさ??」


「ねぇ、あたしのことどう思う??」


その問いに答えが詰まる。


「っっ……………。」


「それが答えだね。」


背中から一瞬にしてぬくもりが消えてしまった。


背中に残るのは、梓紗の残り香だけ………。


「行くなっ!!!!」


気が付いたら、その細い腕を掴んで引き留めていた。


どうしてもいまは、この腕を手放してしまったらいけない気がした。


「っ離して!!!!」


悲痛な叫びにしか聞こえなかった。


梓紗の大きな瞳は、赤く少しだけ腫れている。


たくさん…………泣いたのが分かった。


「お願いだ………行くなよっ………。」


「離してっ!!!!」


俺は梓紗を自分の胸に引きつけた。


どこか遠くに逃げてしまわないように…………。


だけど…………。


「夏起くんは色んな香水を付けてるんだね…………。」


涙を流しながら言ったその一言に、俺は梓紗を離した。


梓紗は俺の身体についた『香水』に気が付いた。


今まで、梓紗の代わりに抱いていた女達の香水に………。


「あたしを抱いたその身体で今まで何人の女の子を抱いたの??」


梓紗は、泣いていたんだ…………。


俺の前で初めて梓紗は涙を見せた。


心が軋んでいく_________痛い_____。


「梓紗…………聞いてくれ………。」


震えた情けない声が出た。


「何も聞くことなんてないでしょ??夏起くんはあたしを忘れてしまったんだから。だって…………。」


梓紗は涙を更に流しながら…………。


「1度もあたしの病室にあれから来てくれなかったじゃない………。」


梓紗はそのまま走って行ってしまった。


俺の前から梓紗は、涙を流しながら消えてしまった。