「誰にも言わないよねって、意味」

 私は先に歩き始めた。

 背を向けた時から、後ろから抱きしめられる覚悟はしていた。

「全く……怒られますよ、部長に」

 なのに、返ってきたのは、苦笑した声。

「唇をよけてあげたんだから、感謝してよね」

 彼の顔を見る勇気はない。

「感謝(笑)、一体どんな感謝?(笑)」

 少しウケたような声を出したが、それほど面白くもなさそうだ。

「君のこと好きだけど、言わないでいてあげるってこーと」

 前を向いたままだから言えた。

 赤面しているかもしれないので、暗いままでいたかったが、足は既に構内に入り、辺りが明るくなる。

 ここでさよならだな、と私は後ろを向いた。

「そんなこと、分かってましたよ。バレバレです」

 彼は笑顔で答えている、冗談の可能性が高い。というか、冗談に決まっている。

「バレないようにしてたつもりなんだけど、バレてたのね」

 私は目を見て言ったが、彼は周囲をちらと確認した。

 そろそろみんなの所に返してあげないといけない。

「じゃ……」

 言おうとしたが、彼が先に言った。

「僕も信用してますから、あなたのこと」

 ちょっ……人が……。