その時私、どんな顔をしただろう。

 目を見開き、無心になった私は、驚きを隠すことができず、どんな表情をしていただろう。

「……その時は私が囲ってあげるよ」

 なんとかいつもの冗談が出る。

 体を動かし、少し離れた自分の席につく。

「僕は囲われ者ですか」

 彼は乾いた声で笑い、少し後ろに椅子を滑らせた。

「似合ってると思うけど?」

 更にいつもの状態にもっていけたことにほっとした。

 彼が言ったことは全て冗談だと思う。

 冗談でなければそんなこと、言えるはずがない。

 そもそも、彼と私の会話は冗談の連続で、彼女とのことも、ずっと結婚しないと言っていたけど、気付けば結婚することになっていたし。

 だから彼の言葉を真剣に信用すると、

「結婚しないって言ってたじゃん!」

 ということになる。

 だから、鵜呑みにしてはいけない。

 してはいけないと分かっているのに、頭の中では彼がそう言った時の真剣な表情が何度も何度も繰り返される。

 私は、無意識に忘れないように脳裏に焼き付けているんだなと、冷静に自己分析しながら、もう一度思い出して、その声に酔った。