「じゃあ、"三月"を頂戴」
勝負に勝ったら勝者は敗者から"ご褒美"を貰える。ご褒美は自由で、敗者はそれを必ず与えなければいけない。
命、とかは除いてね。
黒羽が欲しがるのは大抵"私"。
「黒羽になら、いくらでもあげるよ」
すると黒羽はどこか嬉々とした、だけど不満そうな、物足りなさそうな顔をした。
「私は黒羽のものだから」
黒羽の表情が解かれていく。
「黒羽が望むなら、私もそれを望むんだよ」
「当たり前だろ」
黒羽は私に軽く触れるだけのキスをすると、手を離した。
うん、胸倉は流石にちょっと苦しかったかな。
「これで36連敗。スコアは私が91敗、12勝」
「惨敗だな」
「12回も勝てたことが奇跡だよ」
「その貴重な勝利を何故お菓子にするんだ?」
「お菓子を愛してるから!」
「……」
「勿論、黒羽の次にね」
「……戯れ言だな。あるいは虚言。その言葉が本心じゃないなんて、お見通しだよ。
ねぇ、そうでしょ、狂った道化師《マッドピエロ》?」
「……呼び名に狂気狂気って使い過ぎだよね。失礼しちゃうよ、私が狂者なんてさ」
「それこそ冗談でしょ。お前が狂者じゃなかったら、この世の全ての人間が狂者だよ。
狂って当たり前、狂ってなかったらそれが狂気。怖い社会だね、全く。
だからお前は狂者だよ」
「……仰ってる意味がわかりません」