「うむむむむっ、じゃあ私からのキス……、は、要らないんだよね」
「要らない。欲しくない、興味ない、腹立つからやめろ」
「食べなさい食べなさい食べなさいっ」
「食べなくったって別に死ぬことも病気になることもないんだ。なら食べなくったっていい」
「好き嫌いは良くない」
「どうして?」
「それは、その、ほら、人参が可哀想だよ!」
「苦し紛れの言い訳だね。人参に感情なんかないんだからいいんだよ」
「もしかしたらあるかもしれないっ」
「だとしてももう死んでる」
「う〜っ、黒羽ぁっ」
「何でそう意固地に人参食べさせようとすんの。お前だってキムチ強制させられたら嫌だろ」
私は押し黙る。確かにキムチ強制させられたら嫌だ。
「それでも食わせるの?僕に。ねぇ、三月、そんな酷いことするんだ?」
テーブルの向こう側から小さな手が伸びてきて、私の胸倉を掴んで自分の元へ引き寄せた。
「ねぇ、どうなの?」
うーむ、いつの間にか"勝負"ゾーンになっておる。この勝負は私の……。
「"負けた"よ」
素直にそう言えば、黒羽の口角がうっすらと上がった。
黒羽は勝つの好きだもんね。