美都は、少し恥ずかしそうにしながら、『宜しくね。肇くん。』
それだけ言うと、茜の後ろに引っ込んだ。
…衝撃だった。
お人形かと思った。
肇は、しばし固まっていた。
ここへ来る時のお腹の痛みなど忘れてしまう程、思考や色んなものが停止した。
我が息子の、見事な固まりっぷりを見た茂は、苦笑しながら言った。
『肇、宜しくの時は握手するのが一番いいぞ。』
茂に言われ、肇はハッとした。
そして、父に後ろから押し出された後、『よ…宜しくお願いします。』と、軽く頭を上下させながら、静かに美都の手を握った。
『こちらこそ。』
今思えば、あの頃から冷たい手だった。
 その夜、肇は、何度も美都の姿を思い出した。何度も何度も、繰り返し思い返した。
白い肌、細く長い手足、茶色い長い髪と茶色い瞳、それからピンク色の唇…。
何度思い浮かべても綺麗だった。忘れてしまわない様に、絵を描いてみたが、全然似ていない事に気づき、ガッカリしてやめた。
一緒に暮らすまでの半年間、肇は美都の事ばかりを思って過ごしていた。
寝ても覚めても、美都を想うようになった。 今、その美都はここにいて、あの頃と変わらず、肇を魅了し続けている。
こんなに近くにいるのに…。
『こんなに近くにいられるからこそか…。』
仕方がない。姉弟になる事を初めから決められ知り合ったのだ。
肇は、美都にタオルケットをかけてやった。
しばらくして、父の茂が帰って来た。