肇は、ふと、美都と最初に出会った時の事を思い出していた…。
 あれは11歳の夏、父の茂が肇の為に再婚を決意した。
母が病気で死んでから、6年が経っていた。
その日は、再婚相手の女性に会う為、二人で街のレストランへ向かっていた。
普段は父子家庭で、父親とあまり出かける事の少なかった肇は、朝から緊張して、少しお腹が痛かった…。だからソワソワして、レストランに着くまでの事は何も覚えていなかった。
『肇、この人が新しくお母さんになる茜さんだ。』
茂が、肇の小さい肩を支えながら、彼を少し前へと押し出した。
肇は、更に緊張して、新しくお母さんになる女性の顔をまともにみる事が出来なかった。
あまりにもハニカム肇を見て、茜はしゃがんで、彼と目線を合わせた。優しい笑顔だった。
『肇くん。これから私の事、お母さんって呼んでもらえる?』
肇は、前もって父と約束をしていた通りにうなずいた。
『うん。』
『良かった。』
茜は、更に笑顔になり、続けた。『肇くん。それからね、私にも娘がいるの。肇くんより3つ年上だから、お姉ちゃんになるわね。美都って言うの。宜しくね。』
そう言うと、横にいた女の子の腕をそっと引いた。