肇が大学から帰り、リビングでテレビを見ていると、しばらくして姉の美都が仕事から帰って来た。ひどく顔色が悪かった。
『ねえちゃん。大丈夫?』
足元がフラフラとし、手元が微かに震えていた。
『貧血。』
細くかすれた声で応えると、美都は、そのままソファに滑り込んだ。肇は、すぐ台所へと立ち上がり、グラスに半分水を汲む。
それを差し出した後、しばらく黙って美都を見下ろしていた。
テレビ中の笑い声が、静まりかえった部屋に充満している。
昔から体が丈夫ではない上、貧血を起こすのは日常茶飯事。
真っ白な肌と、痩せた細い手足がそれを物語る。
肇は、さっとリモコンを取り、テレビの電源をオフにする。
『あまり無理するなよな。』
そう言って、美都に目をむける。額はうっすらと汗ばみ、茶色い髪が2、3本そこに張り付いていた。
肇がそっと手を伸ばす。
『大丈夫か。』
美都は、目を閉じたまま、その手をゆっくりとよけた。
真夏だと言うのに、ひんやりと冷たい手。
『大丈夫。しばらく寝るわ。』
そう言って、深く目を閉じる。
『その方がいいな。』
肇は引っ込めた手を、だらしなく下ろした。
しばらくして、静かな呼吸が寝息に変わる。か細い胸元が、浅く上下している。
肌が白く、ところどころの血管が透けて見えている。
美都の髪や瞳は、光に触れると金色に反射する。
まるでお人形の様に、透き通る金色。
しかし、ヘアカラーやコンタクトではないのだ。美都が生きている自然な色…。それは昔から変わらない。