取引
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翌日……


犯人が身の代金の引き渡しを指定した新宿駅周辺では、一般人になりすました大勢の私服警官が、人混みに紛れ込んで厳重な警戒体制をかためていた。


まもなく、犯人からの指定があった正午12時になろうとしていた……
山下刑事は、大きなジュラルミン製のトランクを抱えた羽毛田から目を離す事なく、その周囲に不審な人物がいないかどうか注意をはらっていた。


「これだけ人が多いと、誰もかれもが怪しく見えるな……犯人は、例の携帯で連絡してくると言ったが……」


その日の朝方、藪製薬に発送先不明の小包が届けられた。


その中には、一台の携帯電話が入っており、それと一緒に“身の代金の受け渡しの連絡は、その携帯を使って行う”という内容が印刷されたメモがあった。


携帯は勿論架空名義の物で、指紋や材料の特徴といった犯人の手掛かりになるものは見つかっていない。


その携帯をポケットに忍ばせ、羽毛田は新宿の駅前に立って犯人からの連絡を待っていた。