「クソッ!録音も逆探知もしてなかった……
それで、犯人は何を要求してきたんだね?」


「明日の正午12時に、新宿駅にひとりで一億円持って来いと言ってましたわ!」


「犯人の狙いは金だったか……」


一億と聞いて、藪社長の顔が歪んだ。


「一億だってぇ~!
そんなムチャなっ!」


しかし、新薬“ノビール”の開発には、既にその何倍もの資金を投入している……そして、この発毛剤が発売されればその何十倍もの売り上げによる見返りが期待されているのは明白であった。


「大企業がケチ臭い事言ってんじゃねぇよ!
長年の発毛の夢が懸かってるんだぞ!」


説得と言うより、脅しに近い羽毛田の勢いに押され……藪社長は、渋々犯人の要求の一億円を用意する事を承知した。


「わかりました……
しかし、取引の場所には誰が行くんですか?
私にはとてもそんな大役は……」


責任の重い現金の引き渡し役に、社長は逃げ腰になっていた。


そこで山下刑事は、警察官の一人を藪製薬の社員として取引の場所に向かわせる様に提案をしたのだが……


「ちょっと待ったあ~!その役は、この俺にやらせてくれっ!」


ここぞとばかりに、羽毛田が猛アピールを始めた!


「う~ん……確かに警察官よりは、他の人間の方が犯人には悟られにくいかもしれないな……
それに、探偵のシチローさんなら犯人の要求に臨機応変に対応出来るだろうし(山下は羽毛田を探偵のシチローだと思い込んでいる)」


「そうだろう♪俺に任せてくれよ!なっ!なっ!」


アタマを…いや…目を輝かせて訴える羽毛田の熱意に負けて、山下はこの重要な役目を羽毛田に託す事にした。


喜ぶ羽毛田の隣りで、疑い深そうにその様子を見ていた秘書の朝霧が、呟いた。


「一億円、ネコババしないでよ……」


「なにい~俺がそんなマネすると思ってんのか!」


「思ってるわよ!
だってアンタ、テロリ……」

「わあああぁぁぁ~っ!!!」