そんな会話から数日が経ったある日。

「席につけー。転入生を紹介するぞー。」

その瞬間、教室が一気にざわついた。前の席の友人が嬉しそうに振り返る。どうやら転入生は女子らしい。

「可愛いと良いなあ。そんでもって突然の恋の始まり、とかよ。」

ケタケタと子供みたいに笑うのはいつも一緒に居る友人達の中で一番仲の良い桑原だ。

「そうだな。桑原にも念願の春が訪れるかもな。」

そりゃ願ってもない展開だ、と桑原が悪戯っぽく笑う。そんな奴に笑い返すと教室が一層ざわついた。どうやら転入生のお出ましのようだ。

「藤咲佳南です。…えっと、クラスの皆さんと仲良くしたいと思ってます。宜しくお願いします!」
艶のある長い黒髪。すらりとした四肢。透き通るような白い肌。吸い込まれるような大きな瞳。桜色の唇。…要は目を奪われるような美人だった。

「…うわっ、すっげえ美人じゃん。」

桑原が感嘆を漏らした。桑原がそう漏らすのも頷ける。それほどに藤咲は美しかった。

「ホント、凄い美人さんだね。」

厭味ではなく心から思った。僕は基本的に他人に対して意見しないので、この反応に桑原は驚いていた。

「…お前がそんなこと言うなんて珍しいな。まさか!一目惚れしちゃったとか…?」

桑原はふざけたように仰々しく言った。そんな桑原に呆れながらも同調して返す。