ふいに西田先輩が「――学校、早く始まんねえかな」とぼやいた。ずっと夏休みがいいと思っていた有里は、どうしてだろうと疑問を抱く。


「えっ、どうして?」


「ん? 早く有里に会いたいなって」


何てことないような口調でさらりという西田先輩。この人には恥ずかしさが無いのだろうか、と有里は口ごもって赤くなる。


そういえば、自分も「早く会いたい」と恥ずかしながら言っていたことに気付いた。どっちもどっち、そういうことだろうか。



「……うん」


「恥ずかしいの?」


「もう、笑わないでよ……!」


「笑ってねえって」



教育学部のレベルが高い県外の大学を希望している西田先輩は、なかなか塾や学校の添削で忙しいため、あまり恋人らしいことはしていない。


邪魔になりたくない思いと、彼女としての想いがぶつかり合う。だが、結局は西田先輩の進路を尊重したいという気持ちが勝るのだ。


「じゃあ、またな」


――本当は、不安で一杯だ。


「うん、またね」


呟いた瞬間に耳元で鳴る〝ツーツー〟という虚しい音。学校が始まれば西田先輩に会える。そう思えば、ひどく寂しい気持ちも我慢できる気がした。