聞こえない振りを決め込んだ有里は、かわりにぎゅっと抱き付く。十五分の観覧車は終わりとなり、ドアを開ける係員と目が合った。


「足元にお気をつけ下さい。
――ありがとうございました」


まだまだ長蛇の列である観覧車。


有里と千秋は建物から抜け出して道路を歩き始めると、再び地を揺るがすような音と共に花火が打ち上げられた。


「わぁっ、ほら、見て! あそこ、花火!」


「おっ、でけえ」


たくさんの通行人たちが思わず立ち止まって、花火が彩る同じ空を見上げる。


「向こうの××港、行く? あっちのほうがここより綺麗に見えるんじゃね?」


「行く! 行きたい!」



時折、近くの屋台で食べ物を買いながら、十分ほどで港についた。ここには屋台が無い変わりに人も少ない。いわゆる、花火が綺麗に見える穴場スポットらしい。


次々に打ち上がる花火が海面に揺らぐ。


「めっちゃ綺麗! わぁ、わっ、どうしよ!」


綺麗に花開く場面をカメラに収めようと、携帯電話を構えるが、なかなか上手く行かない。ほとんどがぼやけていて何かわからないものだった。


「だめだ……撮れない……」